「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者――」
そんな中二病全開のセリフを大真面目に言い放つ主人公・シド・カゲノー。このアニメの面白さは、一言で言えば「本人だけが本気の妄想ごっこなのに、周囲が全部本気」というとんでもないズレにある。
シドはかつて日本に生きた平凡な男が異世界転生した存在だ。幼い頃から「陰の実力者」に憧れ、圧倒的な力を積み上げてきた。だが彼の目的はあくまで自己満足。「ディアボロス教団」なる巨大な敵組織も、シドが妄想で作り上げたフィクションのはずだった。
ところがその教団、実在していた。
しかも世界を裏から操る本物の悪の組織として。シドが適当にでっち上げた設定が、現実の陰謀とぴったり一致してしまうというギャグのような奇跡が、この作品の根幹にある。シドは何も知らない。何も調べていない。ただ自分の妄想を楽しんでいるだけだ。それなのに、なぜか全部当たっている。
そしてもう一つの魅力が、ヒロインたちの存在だ。アルファをはじめとする「七陰」のメンバーは、シドの言葉を絶対の真実として受け取り、命がけで動く。シドが冗談半分で口にした一言が、彼女たちにとっては「シャドウ様のお言葉」になる。その解釈のズレが積み重なって物語が進んでいく構造は、見ていて本当に気持ちがいい。
特に快感なのが終盤の合流シーンだ。ヒロインたちが必死に動かした物語の核心部分に、何も知らないシドがふらっと現れて、圧倒的な力で決着をつける。シドにとってはただの「良い感じの登場シーン」だが、周囲には最強の黒幕が満を持して動いた瞬間に見える。この認識のすれ違いが、毎回たまらなく笑えてかっこいい。
原作はもともと「小説家になろう」で連載されていたウェブ小説で、シリアスとコメディの緩急のつけ方が高く評価され、書籍化後も急速にファンを増やしていった作品だ。アニメ化にあたっては、原作の文脈を深く理解した制作陣によって台詞回しや演出が大きく膨らまされており、たとえば主人公の決め台詞がアフレコで何パターンも試された末に生まれたという制作秘話も残っている。原作の行間を読み取り、映像作品としての説得力に変換する丁寧な仕事ぶりが随所に感じられる。
シャドウガーデンを構成する七陰の女性陣も、それぞれ個性的な過去や能力を持っており、誰か一人にお気に入りを見つけられる懐の深さも本作の魅力だ。シリアスな展開とギャグが目まぐるしく入れ替わる構成は、油断していると置いていかれるほどテンポが速いが、その忙しなさこそが本作のクセになる中毒性を生んでいる。
異世界転生ものというジャンルの王道パターンを踏襲しながら、主人公だけが状況を正しく把握していないという逆転の発想が、本作を数あるなろう系作品の中でも独自のポジションに押し上げている。3DアニメーションRPGや劇場版など、メディア展開の広がりも本作の人気の証だ。原作小説、コミカライズ、アニメそれぞれで微妙に展開が異なる部分もあり、複数のメディアを横断して楽しめる作品としての懐の深さも魅力のひとつになっている。
頭空っぽで見られるのに、なぜかめちゃくちゃ熱くなれる。そんなアニメはなかなかない。中二病をこじらせた人間として、シドに共感しかないのだ。
「陰の実力者になりたくて!」は逢沢大介によるライトノベルが原作で、シリーズ累計発行部数は780万部を突破している。コミカライズ版は坂野杏梨の作画で月刊コンプエースにて連載中。TVアニメは1期・2期が放送され、劇場版『残響編』も公開されている。dアニメストアなどで視聴できる。

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