よだれが出るアニメ、というジャンルがあるなら、この作品は間違いなくその代表格だ。

「とんでもスキルで異世界放浪メシ」は、異世界の勇者召喚に巻き込まれてしまった元サラリーマン・ムコーダの物語だ。一緒に召喚された3人は聖剣術や聖魔法といった派手な戦闘スキルを持っているのに、ムコーダだけが授かったのは「ネットスーパー」という、一見どう考えても役に立たなそうなスキル。戦闘力はゼロ、王様の態度も胡散臭い。ムコーダは早々に城を抜け出し、一人で異世界を放浪する旅に出ることになる。タイトルに「放浪メシ」とある通り、決まった目的地を目指す物語というより、行く先々で出会う食材や土地の恵みを楽しみながら旅を続けるロードムービー的な構成も、この作品の心地よさにつながっている。

ところがこの「ネットスーパー」、実はとんでもない力を秘めていた。現代日本の調味料や食材を異世界に取り寄せられるこのスキルを使い、ムコーダは異世界の食材と現代の調味料をかけ合わせて、とんでもなく美味しそうな料理を次々と作り上げていく。例えば旅の途中、護衛代わりに振る舞った猪肉の生姜焼きの香りに釣られて、伝説の魔獣フェンリルが姿を現すという展開からして、もう食欲を刺激してくる。醤油やみりん、出汁の効いた和食の匂いが、異世界の魔物すら惹きつけてしまうという発想がたまらない。ステーキやから揚げ、ハンバーグといった、誰もが知っている定番メニューが異世界の食材で再現されていく過程は、見ているだけでテンションが上がる。

この作品の最大の魅力は、とにかく料理の描写がリアルで美味しそうなことに尽きる。肉を焼く音、湯気の立ち方、ソースが絡む様子まで丁寧に描かれていて、見ているだけでお腹が空いてくる。湯気とともに立ちのぼる匂いまで伝わってきそうな作画のこだわりには、毎回唸らされる。異世界ならではの食材——魔物の肉やダンジョン産の野菜など——を、現代的な調理法でどう美味しく仕上げるかという過程そのものが見どころになっている。

本人はいたって平凡で気弱なサラリーマン気質のままなのに、結果的にとんでもない魔獣たちを従えてしまうというギャップも面白く、戦闘よりも食事シーンの方がよほど印象に残るというのも本作らしいところだ。そしてもう一つ欠かせないのが、仲間になる魔物たちの食べっぷりだ。フェンリルのフェルや、スライムのスイが、出来上がった料理を頬張る姿が本当に幸せそうで、見ているこちらまで満たされた気持ちになる。特にフェルの「とんでもなく強い魔獣なのに、ご飯のことになると途端に子供っぽくなる」というギャップが効いていて、強面の見た目とのんきな食いしん坊ぶりのコントラストが何度見ても飽きない。後に仲間になるスライムのスイも、もぐもぐと夢中で食事をする姿が愛らしく、戦闘では頼もしい魔物たちが食事の場面では一気に可愛くなるという緩急も、この作品ならではの楽しさだ。スピンオフ漫画「スイの大冒険」が作られるほど、スイの人気は高い。

神様たちのキャラクターも本作ならではの面白さだ。風の女神ニンリルをはじめとした神々は、ムコーダに加護を授ける代わりに、自分が食べたい甘いものやお酒を異世界の甘味として定期的にお供えさせるという、なんとも俗っぽい取引を持ちかけてくる。本来であれば畏れ多い存在のはずの神様が、自分の食い意地のために便宜を図ってくるという構図が絶妙にコミカルで、シリアスになりすぎない作品全体のバランスを支えている。次から次へと現れる神様たちが、それぞれ違う好物をねだってくるくだりは、もはやお約束のギャグとして毎回笑ってしまう。

ストーリーの軸はあくまで「美味しいものを食べながら、仲間たちと旅をする」という、シンプルで明るいものだ。英雄を目指すわけでも、復讐を誓うわけでもない。だからこそ気負わずに見られて、見終わったあとに温かい気持ちになれる。異世界ものにありがちな深刻な対立や陰謀よりも、目の前の一食をどう美味しく食べるかということの方が、実はずっと大事なのかもしれないと思わせてくれる作品だ。

異世界転生・召喚ものは数あれど、ここまで「食」というテーマに振り切った作品は珍しい。チート能力で無双する爽快感を売りにする作品が多い中、本作はあくまで美味しいご飯と仲間との時間を中心に据えており、それが結果的に唯一無二の個性になっている。お腹が空いているときに見るのはおすすめできないが、その危険を承知のうえで一度見始めると、止まらなくなる中毒性がある一作だ。

「とんでもスキルで異世界放浪メシ」は江口連による小説(小説家になろう発、オーバーラップノベルスより刊行)が原作で、赤岸Kによるコミカライズが連載中。TVアニメはMAPPA制作で第1期が2023年1月から3月、第2期が2025年10月から12月まで放送され、dアニメストアなどの配信サービスで視聴できる。