敵が出てくる。サイタマが拳を振る。終わり。

これだけで毎回めちゃくちゃ面白い。それが「ワンパンマン」だ。

サイタマは3年間毎日100回の腕立て伏せ・腹筋・スクワットと10kmのランニングを続け、髪が全部抜けるほどの修行の末に「どんな敵も一発で倒せる」最強の力を手に入れた。怪人もラスボス級の敵も、全員ひとつのパンチで粉砕される。これほど気持ちいい作品はそうない。

ワンパンで全部終わる爽快感は、他のバトル漫画にはない独特の快感だ。普通のバトル漫画は「この技が通じない、ではこの技を…」という攻防の積み重ねが醍醐味だ。しかし本作はそれを最初からひっくり返す。どんな恐ろしい敵も、サイタマの前では一瞬で終わる。この潔さが癖になる。

ただ、本作が単純な爽快系漫画と違うのは、サイタマ自身が「強くなりすぎた孤独」を抱えているところだ。全てワンパンで倒せるようになってから、サイタマは「何もドキドキしない」という虚無感に悩んでいる。命のやり取りの緊張感も、死力を尽くして勝つ達成感も、もう感じられない。夢を叶えた男が、その先に何もなくなってしまった——この切なさが、ギャグの裏側にずっとある。

もう一人の主人公と呼べるのが、ガロウだ。「ヒーロー狩り」と名乗り、S級ヒーローたちを次々と倒していく怪人側の男。幼少期に弱者だったことで積み重なった怨念と、歪んだ正義感を持つ彼の物語は、サイタマとはまったく違う重さで物語に深みを与えている。単なる悪役ではなく、ガロウにもガロウの「理由」がある。その正体が明かされていく過程が、本作屈指の見どころだ。

S級ヒーローたちのキャラクターも全員立っていて見逃せない。音速のソニックのどこかズレたライバル意識、ジェノスの真面目すぎる弟子っぷり、キングの「世界最強」という虚名——誰もがどこかおかしくて、だからこそ愛おしい。この個性豊かな面々がサイタマの日常に絡んでくるコメディ部分も、本作の中毒性の大きな一因だ。

村田雄介の作画の話もしなければならない。元々ONEがWeb上でほぼ独自に描き上げた作品を、「アイシールド21」の村田雄介が惚れ込んで作画を担当することになったという誕生秘話を持つ本作。村田雄介の描く戦闘シーンは、一枚一枚が圧巻だ。サイタマのパンチが放たれる瞬間の迫力、吹き飛ぶ敵の描写、画面を突き破るような構図——たった一撃なのに、何ページ使っても見飽きない絵になっている。ワンパンが「一秒の出来事」なのに「永遠に見ていられる絵」として成立しているのは、間違いなく村田雄介の画力あってこそだ。

アニメ1期はマッドハウスが制作し、戦闘作画のクオリティが当時話題を呼んだ。2期・3期はJ.C.STAFFが引き継いでいる。3期は2025年10月から放送が始まり、怪人協会編のクライマックスが描かれている。アニメから入った人も、ぜひ原作漫画まで読み進めてほしい。

最強ヒーローを主人公にしながら、「強さの先にある虚しさ」を丁寧に描く——こんなテーマをギャグと真剣なバトルで成立させている漫画は他に知らない。

「ワンパンマン」はONE原作・村田雄介作画による漫画で、「となりのヤングジャンプ」(集英社)にて2012年から連載中、既刊36巻。シリーズ累計発行部数は3500万部を突破。TVアニメは3期放送中。1期・2期はdアニメストア・Netflix・Amazon Prime Videoなどで視聴できる。