「薬屋のひとりごと」を読み始めたら、気づいたら止まれなくなっていた。後宮という閉じた世界で次々と起きる謎、それを薬学の知識で解いていく主人公・猫猫(マオマオ)の痛快な活躍——まず物語の構造自体が面白い。

舞台は架空の中華風帝国・茘。帝の御子をなすための「後宮」という、現代から遠くかけ離れた女の園だ。花街で薬師として育った猫猫は、ある日人さらいに遭い、後宮の下女として売られてしまう。本来ならば絶望するところだが、猫猫は違った。持ち前のドライな性格と図太い神経で状況を受け入れ、目立たないように静かに年季が明けるのを待つつもりだった。

しかし好奇心が勝った。後宮に巣食う「呪い」の噂を聞きつけた猫猫は、薬の知識でその謎を解き明かしてしまう。それがきっかけとなり、以後は美貌の宦官・壬氏(ジンシ)の命を受けながら、幽霊騒動、毒殺未遂、謎の死——後宮に渦巻く事件を次々と解決していくことになる。

この作品の謎解きが絶妙に気持ちいい。複雑すぎず、かといって単純すぎない。薬や毒、医学の知識が謎解きの核心にあるため、「なるほど、そういうことか」という納得感がしっかりある。猫猫の推理は合理的で一貫していて、ヤキモキする場面が少ないのも読んでいて心地いい理由のひとつだ。

猫猫というキャラクター自体も魅力的だ。毒を前にすると目をキラキラさせる、ちょっとおかしな女の子。感情を表に出さず、クールに見えるのに、薬や毒の話になると途端に生き生きとする。そのギャップが面白くて、読んでいる間中ずっと猫猫のことを好きになっていく。

壬氏との関係も見どころだ。壬氏は後宮で最も美しいとされる宦官で、その美貌は帝に仇なす者を炙り出すための「武器」でもある。しかし猫猫にはまったく通用しない。そこに興味を持った壬氏が猫猫に近づいていく構図が、じわじわと面白い。恋愛とも言い切れない、独特の緊張感と信頼関係が二人の間には漂っていて、その距離感の変化を追うだけでも読む価値がある。

そして漫画スクウェア・エニックスの「月刊ビッグガンガン」版の作画は、とにかく美麗だ。衣装・装飾品・背景まで細部まで描き込まれていて、ページをめくるたびに後宮の世界に引き込まれる。猫猫の表情の細やかさ、壬氏の美しさ——キャラクターの感情が絵から伝わってくる。

ミステリーとして楽しめて、ラブコメとしても楽しめて、世界観としても楽しめる。それが4500万部という数字に表れている。読み始めたら止まれない、そういう作品だ。

「薬屋のひとりごと」は日向夏先生による小説を原作とした作品で、漫画版はスクウェア・エニックス「月刊ビッグガンガン」版と小学館「月刊サンデーGX」版の2種類がある。シリーズ累計発行部数は4500万部を突破し、TVアニメ第2期も放送済み。コミックシーモア・BOOK☆WALKERなど主要電子書籍サービスで読むことができる。