太田君が驚かせようとする。柏田さんの表情は1ミリも動かない。太田君だけが顔を真っ赤にして撃沈する。
これが全話繰り返されるのに、飽きない。それどころか毎回ニヤニヤしてしまう。それが「顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君」という漫画だ。
ヒロインの柏田ひよりは、何があっても表情が変わらない中学生だ。どんなにちょっかいを出されても、どんなにびっくりさせようとされても、顔は無表情のまま。見た目だけ見ると「何を考えているかわからない怖い子」に見えるが、実は心の中では人一倍いろいろ感じていて、実は笑い上戸で、友達思いで、一途な性格だ。ただそれが顔に出ないだけ——というギャップが、この作品の核心だ。
対して太田秋人は、全てが顔に出る。嬉しければ顔が真っ赤、驚けば叫ぶ、焦れば挙動不審になる。柏田さんを驚かせることを一種の使命のように掲げているのだが、毎回撃沈する。その不発のたびに太田君の表情がぐるぐる動いて、それが毎回笑える。
このギャップの組み合わせが見事だ。柏田さんの無表情は「感情がない」のではなく「感情がある」ことの証明として機能しており、よく見ると表情の微かな変化や、行動の端々に感情が滲んでいる。それを読み取れるようになってくる頃には、完全にこの作品の世界に引き込まれている。
本作のもう一つの大きな魅力が、周りのクラスメイトたちだ。ツッコミのタイミングとセンスが「プロ級」の田所君、察し上手でクールなイケメンの佐田君、爆発的なパワーで柏田さんの解説役を担う小田島さんなど、全員が個性的で愛おしい。この面々が絡むことで、柏田さんと太田君の関係性がより引き立てられる構図になっている。
本作の作者・東ふゆはSNSに投稿した作品が大きな反響を呼び、投稿開始から約1年で連載が決定したという経歴を持つ。原作はKADOKAWAの「ドラドラしゃーぷ#」にて2018年から2023年まで連載され、単行本は全10巻で完結している。連載終了後もアニメ化を機に番外編「顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君+」が連載再開され、中学2年生の夏休み編や高校生編など、本編では描ききれなかった二人のその後が描かれている。
TVアニメは2025年10月から12月にかけてTOKYO MXほかで放送された。アニメーション制作はSTUDIO POLON、監督は神谷智大が担当。柏田さん役は藤田茜、太田君役は夏目響平が演じており、特に表情の変化が極めて乏しい柏田さんを「顔に出ない」まま声だけで感情を表現する藤田茜の演技は、原作ファンからも高く評価されている。
漫画の柏田さんは動かないが、アニメでは「アニメならではの工夫」が施されているという作者のコメント通り、原作の空気感を保ちながら映像的な魅力も加わっている。アフレコ現場では毎回笑いが起きていたというエピソードも、作品の温かい雰囲気を物語っている。
「顔に出ない」という設定は、読者や視聴者にも柏田さんを「読む」楽しみを与えてくれる。ほんの少しの眉の動き、目線のわずかなずれ、行動の小さな変化——そういった細部を追いながら「あ、今柏田さん嬉しいんだな」と気づく瞬間が、他のラブコメとは違う密かな楽しさを生み出している。
ニヤニヤが止まらないのに、なぜか見終わった後にほっこりしている。そういう稀有な作品だ。
「顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君」は東ふゆによる漫画で、「ドラドラしゃーぷ#」(KADOKAWA)にて2018年から2023年まで連載、全10巻で完結。番外編「+」も連載中。TVアニメは2025年10月から12月にかけて放送。各動画配信サービスで視聴できる。
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